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禁断の果実に口づけを
第25章 こゝろ次第

 
 朋子は落ち着いてから、母にずっと考えていた事を打ち明けた。

 「お母さん、エンバーミングって知ってる?」

 「……さぁ…何の事だか?」

 「大事な人が亡くなった時、故人を綺麗な状態で旅立たせる為に、家族の思いでエンバーミングを依頼する事があるわ。
事故でさ、遺体に損傷を受けた人を修復して綺麗な姿にしてから送り出してあげるなんて凄いよね。
それを教えてくれたの。
大事なご主人を私と同じように事故で亡くされて…… 
人が亡くなるのは凄く辛いけど、でも、故人や家族が心残りがないように旅立たせてあげるってかけがえのない事だと思う。
そんなお手伝いをしたいの。
だから、それが出来るエンバーマーを目指したいの。
そういう仕事がしたい。
未来に誇れる様な仕事をしたい」

 「朋子……
やる気があれば何でも出来る!
そう思えるものがあるなら、突き進みなさい。
応援はする」

 「有難う。お母さん。
二年間学校に通う事になるけど、必ず資格を取る。
ちゃんとバイト先を探して、働きながら取ってみせる。
未来の面倒もちゃんとみる。
でも、私が行き届かない所はフォローして欲しい」

 「うんうん。分かったよ。
孫の遊び相手も呆け防止にいいんじゃないかしら?
まだまだ私達が生きている間は頼りなさいよ!
朋子らしく生きなさい。
それが約束。
本当の笑顔を取り戻していくんだよ。
暗い顔は朋子には似合わない」

 「………はい。宜しくお願いします」

 ずっと靄がかかった朋子の心にも明るい陽射しが差し込んだ瞬間だった。



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