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禁断の果実に口づけを
第29章 三日天下
「秋山代理も同席して下さい」
と所長に言われ、応接室に向かった。
やがて、北原晴美もやって来る。
論より証拠とばかりに、支社長から転送された例の動画を、所長は北原晴美に見せた。
たちまち、さっきまでの笑顔は曇ってゆき、動画を見ながら口元を手で押さえて呆然と立ち尽くす晴美。
「北原さん。
会社としては……懲戒解雇処分を下す事になりそうです。
今、秋山代理に同席して頂いているのは、北原さんがやってしまった事は、相手がある犯罪だからです。
この件に関しては秋山代理とお話して貰えますか?
会社としては、社内で起きてしまった責任はこういう形で取るという事です」
この動画を見せられたら、言訳も反論も出来ずに従うしかないだろう。
今日の今日でこの事を告げるのは酷な様に見えるが、いずれ事実を突き付けられて懲戒解雇処分が下され、会社をクビになるのなら一日も早い方がいい。
どうせクビになる会社なんか長くも居たくないだろう。
所長も北原リーダーに最後の情けを掛けたのだと思った。
「も、も……申し訳……ありませ……」
言葉を震わせながら、下を向き涙を流す北原晴美。
嗚咽が漏れて、ハンカチでおさえる姿が痛々しい。
洋子は被害者でありながらも、その姿を見て、これ以上追い込めないと思った。
「もう、済んだ事です。
そこまで北原リーダーを駆り立てる様な事をしていた私にも責任があります。
表沙汰にはしません」
そう晴美に告げると、絞り出すかの様な声で「申し訳……ありませんでした…」と謝罪の言葉を口にした。
これ以上、どう声を掛けて良いかも分からなくなった。
北原晴美が泣き止み、落ち着きを取り戻すまで、沈黙の中、応接室の三人はそれぞれの行方を考えていた。