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禁断の果実に口づけを
第29章 三日天下
晴美は夫の入院している病院に来ていた。
夫の病室に行き、管で繋がれた夫のベッドに寄り添い、眠る夫を眺めた。
ポロポロと涙が溢れた。
弱々しく目を開けた夫の文和が晴美を見ていた。
「な……なに……ない……てる」
やっと声が出るほど、文和の体は衰弱していた。
もう、口から物を食べる事も出来ず、点滴で栄養を取っている。
ガッチリしていた体はやせ細り、癌の進行を物語っていた。
「あなた、私と結婚して幸せでしたか?」
晴美の問いに文和はニコッと微笑んだ。
「あなたの……その苦しみ……変わってあげたい。
私が……あなたの代わりになれたら良かったのに……」
文和は僅かに首を左右に振る。
「あなた……私を置いてかないで下さい……
一人にしないで下さい……」
文和は、痩せて血管の浮き出た手を晴美に差し伸べる。
晴美は文和のベッドに寄り添う様に屈んで手を握った。
「い き ろ……よ………は…る……み……」
「あなた……あなた!……あなた………」
病に倒れた夫を支え、強気で生きてきた女が、弱くなって泣き縋った。
文和は泣いている晴美の髪を撫でた。
夫婦なら言葉を交わさずとも分かる事もある。
晴美は今やっと重たい鎧を脱ぎ、一人の女に戻れたのかもしれない……