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禁断の果実に口づけを
第31章 微睡みの中
一般病棟に移されから、ガーベラや薔薇、トルコキキョウなどをアレンジした花を持ち、伊織が洋子の見舞いに訪れた。
「秋山代理、お加減いかがですか?」
「あっ、有難うございます。
その……私、事故前の記憶が無くて……すみません。
どうしても思い出せなくて……
お花有難う御座います。凄く綺麗」
「あっ、ならこちらの棚に置きますね」
「はい。お花を眺めていると明るい気持ちになります」
「そうですか。なら良かった。
本当なんですね。事故前の記憶がないって伺ってます」
「はい。こうなる前、自分がどの様に過ごしていたのか、スッポリ抜けている部分が在ります」
「そうでしたか……
私は川端伊織と申します。
秋山代理とこんな挨拶するのも気恥ずかしいのですが……」
「あっ!あなたが事故の時、最初に駆けつけて下さって救急車呼んで下さった方ですよね?」
「………はい」
「その節は有難う御座いました。
助かりました」
「本当にあの日の事覚えてないんですね?」
「残念ながら覚えてないんです。
また何かのきっかけで思い出すかもしれませんし、その時を待つしかないんですよね。
でも、無くなった記憶、思い出さなくてもいいという気持ちと、大切な何かを置き忘れてしまった様な気持ちが交互するんです。
川端さんは事故前の私を知ってるんですよね?」
「はい……」