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禁断の果実に口づけを
第32章 記憶の欠片
久し振りに外に出た。
風が気持ち良かった。
春を感じた。
ゆっくりと車椅子を押され、外の空気を満喫する。
空いているベンチを探して、片岡伸介は座り、私はその横に居た。
「冷めないうちに飲めよ」
そう言って缶コーヒーを渡される。
「有難う御座います」
缶コーヒーを受け取りお礼を言った。
「すっかり、忘れちまったか?
俺のこと?」
「ごめんなさい。記憶が戻らなくて」
「無理に思い出すな。
さほどいいもん与えてねぇーし。
思い出したくない様な男だって自覚もある」
「どうしてですか?」
「酷い事もしてきた」
「どんな?」
「思い出したら、洋子、赤面しちゃうかもな?」
そう言ってイタズラな笑う。
その笑顔に懐かしいものを感じたり、キュンと切ない気持ちになったりもした。
「どんな事なんだろう?
分からない記憶は未完成のパズルみたいです。
ピースが見つからないと埋まらない。
でも、埋めなくてもいいピースには思えない」
「洋子は俺に似てんだよ。
だから、意地悪もした。
出会った頃は、過去の俺に対面させられたみたいでムカついた」
「私が?」