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禁断の果実に口づけを
第32章 記憶の欠片

 片岡伸介は静かに語りだす。

 「伊織と俺がイトコなのは聞いたよな?」

 「えぇ…」

 「俺の親父とあいつの母親が兄妹でさ、小さな時から殆ど一緒に育った。
俺の爺ちゃんは、片岡モータースの先代社長」

 「片岡モータースって、自動車やバイク部品メーカーの大手よね?」

 「そう。
俺、意外におぼっちゃま」

 「あっ、そうなんですか」

 「以前の洋子なら、ここで驚いただろうに……。
その爺ちゃんは、何故か伊織ばっか可愛がった。
意味が分かるまで時間も掛かった。
女は可愛がられる事で愛嬌を育てるんだと。
男は我慢を育てて大人になるんだとさ。
確かに爺ちゃん以外の人間は俺には優しい。
三代目の跡取りなのは、生まれた時から決まっていたしな。
大学を卒業してすぐに片岡モータースに入社した。
ジュニアなんて周りからおだてられて、いい気になった。
会社を爺ちゃんよりも親父よりも大きくしたくてさ……。
段々、出来ない奴に追い打ちを掛けて、叩きのめす様な嫌な男になっていた。

 これくらい出来て当たり前を自分の物差しで決めた。
嫌われるのは簡単だな。
見兼ねた爺ちゃんに今の自動車工場に追いやられて、一人で生活して来いって喝入れられた。
元々、爺ちゃんも町工場から叩き上げられてきた人間だからな、俺の腐った根性を見抜いた」

 「そこが私に似てるの?」

 
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