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禁断の果実に口づけを
第33章 ピース
午後からは心療内科で診察を受けた。
アラフィフ世代であろう、女医の浅井和美は、洋子に穏やかな声で質問してきた。
「何か思い出した事、ありましたか?」
「何となく……お見舞いに来て下さった方とお話をしていると、失った部分の自分が分かってきました」
「あら、それはどんな風にですか?」
「……とても嫌な人間だった様です」
「嫌な人間だったと言われたんですか?」
「あっ、いえ。
単刀直入ではありませんが、傷つけてしまった人が居たようです」
「そうでしたか……
その方はそれを伝えに来たのですか?」
「いえ。そういう訳ではないと思います。
事故の日の事を教えて下さったり、私が過去にその方に対してしてしまった事をやんわりと……」
「それでそう思ったんですね?」
「はい」
「そうであったとしても過去の事なんですよね?」
「はい……」
「それを踏まえて秋山さんに会いに来てくれたんですね」
「はい」
「秋山さん、人間は万人ではありませんから、良い事もすれば、悪い事もします。
自分の事を好いてくれる人も居たら、残念ながら嫌われてしまう事もあります。
それでも、お見舞いに来てくれたり、過去を語ってくださるのは、秋山さんの苦しみも分かってくださる方なんではないでしょうか?」
「あっ、はい。そう思ってます……」