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禁断の果実に口づけを
第33章 ピース

 「秋山さん、リラックスです。
人は皆、穴があったら入りたいくらいの恥ずかしい事や死んでしまいたくなる様な悔しさ、悲しさ、辛さを乗り越えなくちゃいけない時があります。
逆に嬉しい事や楽しい事があって笑ったり満たされたりもします。
そういった日々を繰り返して生きてます。
事故で記憶の一部を失ってしまったかもしれません。
いつ記憶が戻るかも分かりません。
戻らないかもしれません。
分からない事は不安にさせるものです。
あなたの苦しみはあなたにしか分かりません。
例えば、私にも思い出したくもない嫌な過去があります。
なるべく思い出したくないから、普段は敢えて考えない様にしてます。
悔しい、悲しい、辛いという感情を、ずっと持ち続けるのは、心に大きな負担をおわせるのではないでしょうか?」

 「はい」

 「私達は忘れたい事を心に訴えています。
心は忘れたいとう意思を受け取ります。
どんなに悔しい事があっても、大半は記憶の隅に追いやってませんか?」

 「あっ、確かに」

 「はい。そうですね。
極端な話、どんな辛く悲しい事でも十年間毎日思い出すって事は、ある意味稀な事なんですよ。
大概の方は忘れようとしますし、忘れていくもんですよ。
心は持ち主の意思を尊重してくれているのかもしれませんね。
だから、秋山さんがさほど苦しいと思わないのなら、自然に任せてみるのも手じゃないかなって思います。
ある日、ふと思い出したり、忘れていた事が頭に浮かんでくる事も十分ありえますから」
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