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禁断の果実に口づけを
第33章 ピース
洋子が病室に戻ると、棚の上にカップケーキが置いてあった。
「あっ、これは……?」
「秋山さんおかえりなさい。
今ね、うちの主人と娘が持ってきてくれたの」
隣のベッドの安田君枝が洋子に声を掛けた。
「すみません。安田さん」
「うううん。
うちの主人、ケーキ屋に勤めているから社割りで安く手に入るのよ」
「あっ、そうなんですね。
有難う御座います。
じゃあ遠慮無く頂きます」
「はい。どうぞ」
洋子がお礼を言い、安田のベッドの方に視線を向けると、優しそうなご主人と娘が居た。
互いに軽い会釈の挨拶を交わした。
「そろそろ行こうか?
ママも疲れちゃうだろ?」
「えっ!まだ!ヤダ!!」
「ごめんね。亜子(あこ)……ママ、早く退院出来る様にするから。
暫く我慢ね。
パパの言う事ちゃんと聞けるかな?」
「ママ……」
俯きながら下唇を噛み締めて、涙を我慢している少女。
その寂しげな瞳に見覚えがあるような気がした。
ふと、洋子は棚の上のカップケーキを見た。
綺麗にデコレーションされたティラミスが乗っていた。