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禁断の果実に口づけを
第34章 Energy
暗闇の中にポッンと洋子は居た。
やがて、『こっちだよ』という声が聞こえくる。
声が聞こえる方向に薄明かりが差した。
その明かりを頼りに手探りで恐る恐る歩いていく。
やがて、声の主の顔が浮かび上がってきた。
「ねぇ、ちゃんと伝えた?」
声の主は洋子に話し掛けた。
「あっ!……あなたは安田さんのお嬢さんで……確か亜子ちゃんだよね?」
「私の事覚えてないの?」
「夕方、病室で会ったよね」
「それが初めてじゃないでしょ!
思い出せないの?」
「ええ……」
「じゃあ、此処なら分かる?」
一瞬でパッと明るくなり、マンションのエントランスに立っていた。
亜子は、インターフォンに向かって、何か話をしている。
次の瞬間、ガッカリした表情になってバッグの中から赤い包装紙でラッピングされた物を取り出し、洋子の方を真っ直ぐ見て、「忘れちゃいけないでしょ?気持ちまで隠れん坊したらダメでしょ?」と言った。
言い終わると、また切ない表情になり、何か言いたげに口をモゴモゴと動かしたが、洋子には聞き取れない。
「亜子ちゃん……」
そう話し掛けたが、洋子の視界から一瞬で亜子は消えてしまった。