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禁断の果実に口づけを
第35章 禁断の果実
高速を降りて、のどかな山道を軽快に走ると手打ち蕎麦の看板が見えてきた。
知らない人なら普通の一軒家だと思って通り過ぎてしまうだろうと思うほどそのお店は目立たない。
その店に車を停めて中へと入る。
にこやかな女店主が出迎えてくれて、席につくと自然の風が窓から入り心地良い。
五月を過ぎると都会のオフィスは冷房をかける。
時に体の芯まで冷えてゆくほど寒さを感じたりもする。
争うように背の高いビルが建てられてゆき、風通しさえも奪われた都会の空。
そんな破壊された自然の中に普段居る私にとって、今、ひしひしと目には見えないエネルギーを感じて癒されてしまう。
向かい合わせに座る伸介を見た。
記憶を取り戻してら、一層、愛しいと実感してしまう男の顔は、自然の笑みが溢れている。
自然のエネルギーというものは、ありのままの本来の姿を引き出してくれるものかもしれない。
女店主がざる蕎麦を二人前運んできた。
蕎麦の横には山菜の小鉢がちょこんと乗っている。
「美味そうだな!」
目をキラキラさせながら蕎麦をすする伸介。
「洋子ものびないうちに食えよ!」
「えっ、あっ、うん!」
あなたに見惚れていたなんて………
絶対、云わないからね!