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禁断の果実に口づけを
第38章 素
「僕の名前は卯月(うづき)だから。
洋子さんの着ている浴衣……」
確かに浴衣の柄はの月に向かって兎(卯)が跳ねている。
別に卯月を意識した訳ではない。
これはただの偶然。
偶然でありながらも、青田に言われてハッとした。
今宵、祇園祭の熱い夜に想い出ごと塗り替えられてしまいそうな程の衝撃を受ける。
何も言えず、ただ俯く洋子。
「勘違いでしたか……。
でも、そんな偶然が僕をドキっとさせたんです。
じゃあ、僕が素直になって楽になっちゃおうかな……
天鈿女命 (あめのうずめのみこと)は、天照大神(あまてらすおおみかみ)が天の岩戸にこもったとき、踊って、大神を岩戸から誘い出したという説があります。
天照大御神が岩屋から引き出されたお陰で、暗黒だった世界がまた陽光に照らされることになった。
僕の心も、妻が亡くなった時は真っ暗闇の中に居ました。
哀しんでばかりもいられなかったから、現実を見ました。
もう、恋に無縁の生涯で終えるつもりで生きてきたし、そういう欲も出さなかった。
でも、あなたと会ってから、その欲が抑えられなくなっていった。
好きですよ。洋子さん」