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陽炎ーもうひとつの物語ー
第3章 三人
泣き腫らした真っ赤な目で、でも目の焦点は合ってない。

目の焦点が合ってないヤツってのは、それだけで気になる。

見てくれは二枚目役者みたいな男前だった。

そんな小綺麗な顔で目が腫れる程の泣きっ面なんだから、気にならない方がおかしいだろう。

「お前、鷺みてぇな顔してんな」

声をかけてみた。

少し話して、目が見えねぇんだとわかった。

めくらってのは、それだけで職も限られる。めくら用の道もねぇし、普通に暮らして行くんだって誰かの世話になんなきゃならねぇことが多い。何をするにも不便だろう。

「ここで、何してんだ?」

と聞いたら、

「何も。俺には何もない。楽しいことも、嬉しいことも。辛いことも悲しいことも。な〜んにも、ない。ただ、腹が減りゃ飯食って、眠くなりゃ寝て。退屈で死にそうなのに、退屈じゃ人って死ねねぇんだな。」

なんて言う。

じゃあなんで泣いてたんだ、とも思ったが。
若え癖して、人生諦めきった様な態度がちと癪に触る。
そんな台詞は遣りたい事遣り切ってジジィになってから吐きやがれ。
三十年早えよ。

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