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陽炎ーもうひとつの物語ー
第6章 決意
赤猫を囲って半年。春の事だった。
子が出来た、と言われたのは…

晴天の霹靂だった。

女を囲うなんてのは、赤猫が初めてで。それまで商売女としか寝たことがなかった。

商売女ってのは、客との間に子が出来ねぇよう、色んな処置をしてるもんだ。
そして、万が一子が出来たとしても、誰の子かなんて特定も出来なきゃ、客に知らせることもない。
人知れず降ろすか、産んで廓で育てるかだ。

そんなことくらい知ってたのに。

素人の女を、何の処置もせずに抱き続ければ、いずれ子が出来る。そんな、ごく当たり前のことを、綺麗さっぱり失念していた。

それまで女を孕ませた経験がないから、勝手にタネがねぇんじゃねぇか、なんて、楽観的に考えてた。

そして、子が出来たと知らされて初めて、てめぇの立場を考えた。

盗賊の頭。

人の親になれるような仕事じゃねぇ。

赤猫に子を産ませるには、俺の側から離すしかなかった。

金はやる、一人で産んで育てていけ。子の為を思うなら、二度と俺には関わるな。
一人が嫌なら、誰かてて親になってくれそうな男捕まえて、幸せに暮らせ。
火傷の顔を思えば、そんな男もなかなか見つからねぇだろうことは、分かりきっていた。

何より。

そう言って突き放すには、俺は赤猫に惚れ過ぎていた…


だから、俺は咄嗟に降ろせと言った。
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