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陽炎ーもうひとつの物語ー
第6章 決意
咄嗟に降ろせと、所帯持った訳でもねぇのに産めると思ったかなんて、酷い言葉をぶつけてその場から逃げたものの、行くとこもなく。
俺は、赤猫を囲うようになって初めて、昔馴染みの廓に行った。

「市九郎様?随分とお見限りでござんしたなぁ。もうわっちのことなんぞ、忘れておしまいになったかと、気をもんでおりんした。」

そう言って、馴染みの娼妓、桜は、流し目をくれながら俺の首に腕を回してくる。
以前なら、

「お前の事忘れたりするわけねぇだろう?」

なんて、抱き締めて口の一つも吸ったもんだけど、今回は正直忘れてた。

ただ、行くとこに困ったのと、聞きたいことがあって、偶然思い出しただけだった。

それでも。

廓の部屋で、娼妓と二人で、何もしないわけにもいかず。
心の奥に溜まった澱みてぇな、もやもやしたモンを吐き出してしまいたくて、桜を抱いた。

ちっともスッキリしなかった。


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