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陽炎ーもうひとつの物語ー
第2章 二人
鍵はデカいだけで、作りは複雑じゃなかった。
ちょいと動かしただけで、カチッと開く手応えがあった。
錠を外し、餓鬼の手を引き脱走を図る。
とりあえず、そいつを背負って一番近いアジトに走った。

一番近かったのが、夏場の仮小屋で。
俺はその選択を、後々後悔することになる。

が、軽いとはいえ、人一人背負って走るには、その距離が限界だった。

その日は遅かったのもあり、そのままそこで眠った。

朝、薄汚れた女物の着物じゃあんまりだろう、と思って餓鬼に着物を貸してやる。
襦袢の下は腰巻だった。そこまで女物かよ。

「新(さら)じゃねぇけど、ちゃんと洗ってっからよ。」

俺は下帯も出して渡してやった。

餓鬼は手に下帯を引っ掛けたまま、不思議そうに見ている。

「お前、下帯の締め方も知らねぇのか?こうやんだよ」

腰巻を外し、下帯を締めようとして、思わず手が止まる。

下帯で隠すべき男のモノが、異様に小さい。
歳は十四、五歳ってとこだろうに、毛もなきゃ先も隠れたまんまで指くらいの大きさしかねぇ。
幾ら人それぞれったってコレ、使えンのか?と思ったら、タマがなかった。

俺は思わず考える。

女じゃねぇのに、生まれつきないヤツなんて、居るんだろうか?

と思ったら、傷跡のようなものが見えた。コレは…明らかに切り取られてる、よな…?

あまりの痛々しさに、直視できない。

ふぅ〜、と一つ息を吐き、心を落ち着かせようと試みる。
俺は傷跡を指差し、聞いた。

「これは…あの、狸ジジィの仕業か…?」

餓鬼はコクリと頷いた。

ドコまで腐ってんだあの下衆野郎!

「クソが…!」

思わずギリッと、歯噛みしてしまう。

餓鬼が俺の様子に驚き、ビクリと、肩を震わせる。あ、怖がらせたか?

俺はかぶりを振り、下帯を締めると着物を着せてやった。
そのまま朝飯の支度をする。
粥と干し魚を焼いただけの、簡単なものだったが、
餓鬼は黙々と食った。

「お前、名は?」

「八尋」

「八尋か?俺ァ市九郎だ。」

八尋は、あまり喋らず、表情も変わらない。
人形のようなヤツだった。





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