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陽炎ーもうひとつの物語ー
第6章 決意
問題は鷺の奴だ。

稼いだ金で廓に通うかと思いきや、どうやらその辺の安宿や夜鷹で済ませているらしく。
(※夜鷹[ヨタカ]…外娼)

そんな鉄砲女止めとけ、ちゃんとした店に行けるだけの金くらいあるだろう?と言ったら、金は使わず貯めておくと言いやがる。
何の為か聞いたら、

「俺、一回、お職の花魁揚げてみたいんだよね」

と言った。
何を言い出すかと思えば…

お職ってのは、見世の最高位に君臨する遊女で。
大抵金で何とかなる廓の中にあって、唯一客を選べる立場の女だ。

銭箱積み上げたとこで「無粋なお方」の一言で、男の全てを無に帰すことが出来る。
つまり、俺らみたいな庶民にとっちゃ、高嶺も高嶺、雲の上に咲いてる花みてぇなもんだ。

実際花魁を揚げようなんざ考えたこともないから詳しい事は知らねぇが、最低でも三回通って、うち最初の二回は口も聞かねえという。

物言わねえ女と一つ部屋で飯食うだけで幾らかかるもんだか…
その辺りのことがちゃんと分かって言ってんのか、と聞いたら、

「聞いたことはあるよ。でもさ、一回てっぺん見てみたいじゃない。その為なら俺我慢できる。」

と、ニィッと笑った。

駄目だ。
コイツは、俺が思った以上の、筋金入りの馬鹿だ…
その時俺は、

「悪いこた言わねぇがよ、夜鷹なんて病気持ってる奴もいっから気を付けろよ…」

と言うのが精一杯だった。

アイツには金の使い方含めきっちりと説教してやらにゃなるまいな…

※鉄砲女…安値で身体を売る女郎。病気を持っていることが多く、当たったら危険(死ぬ)、という洒落から鉄砲と呼ばれる。
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