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陽炎ーもうひとつの物語ー
第2章 二人
アジトについて、囲炉裏に火を入れ、部屋を温めていると、八尋が唐突に口を開いた。

「あ…あの…主人を殺したのは…貴方ですか…?」

掠れるような、絞り出すような、でも女のように甲高い声だった。

こいつの声って、こんなのだったか?

一月一緒に暮らしても、ほとんど喋らなかったから印象が薄い。

まぁ、あのジジィが結局何で死んだかまでは知らねえが、俺の処刑が起因していることは間違いないだろう。

「さぁな。俺は、お前が受けた苦痛をあの狸ジジィに味あわせてやっただけさ。」

とだけ言った。

俺を見つめる八尋の目に見る見る涙が盛り上がる。

「どうした?」

意味がわからなかった。
女にしか見えないこの顔で泣かれると無駄に焦る。

流れる涙を拭いもせず、八尋はかぶりを振り、嗚咽を漏らし始めた。

そのうち両手の甲で涙を拭い、餓鬼のように泣き続ける八尋を前に、俺はどうすることもできず。

ひどく居心地が悪かった。

ひとしきり泣いた八尋は、ぽつりと一言呟いた。

「私は…人なんですね…」

「あぁ?そりゃどういう意味だ?」

八尋は目を伏せ、また涙が頬を伝う。

「今まで、私はモノとして扱われてきました…
私の意思など関係なく、逆らえば殴られ、ただ、生きていたければ、されるがままになっていれば良いのだと言われてきました。

そうまでして生きていたいとも思いませんでしたが、死ぬ自由すらなかった…
私が、苦痛を感じていると、私に苦痛を感じる心があるなど、誰一人言ってはくれませんでした…
貴方だけです…」

ポロポロと涙を流しながら話す八尋に、
俺もつられて泣きそうになり、
鼻をすすって誤魔化した。

それは、初めて八尋が、感情を表に出した瞬間でもあった。
何が出来るかなんて、まだわからねぇけど。
これから、コイツが心から笑えるように、色々経験させてやりてぇ、と。
そして、生きててよかった、って思わせてやりてぇと、思った瞬間だった。




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