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料亭『満月』
第1章  
残された仁科は「専務、どうぞ……」とビール瓶を差し出した。
瓶の口が、私の持ったコップの縁にカタカタと当たりながら、ビールが注がれた。
瓶を置いたあと、彼女の目が上の方を向き、せわしなく動く。
何か話の糸口を考えているようだったが、彼女の口から言葉は出てこなかった。
代わりに、襖の向こうを気にして、何度もそちらに顔を向けた。
私も口を開かず、沈黙の時間が続いた。
襖が狭く開いた。
「専務、すみません……仁科君、ちょっと……」
そう言うと、仁科に手招きした。
彼女は立ち上がり三谷に近づいた。
三谷と仁科は敷居を挟んでひそひそと話しを始めた。
仁科が「そんな……困ります……私も帰ります」と三谷に詰め寄っているのが聞こえる。
しばらく押し問答のあと、三谷が部屋に入ってきた。
私の隣に正座すると申し訳なさそうに言った。
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