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料亭『満月』
第1章  
「すみません、専務、急にトラブルが発生しまして、私は戻らなければならなくなりました。仁科は置いていきますから、専務はゆっくりとしていってください。今回は本当にありがとうございました。このお礼は今度また改めて作りたいと思います」
「なんだね三谷君、今日は三谷君と飲めると思って楽しみにしてきたのに、残念だね」
「私はこの通り、取引先にトラブルが発生したらどんな時も対処する男なので、これからもご安心ください……この埋め合わせは必ず……あ、今うちの社長にも報告しました。大変喜んでおりました。くれぐれもよろしく伝えてくれとのことです。社長に代わってもう一度お礼申し上げます。これで我が社もやっと黒字になります」
そして、仁科に向かい
「仁科君、くれぐれも粗相の無いように、最後まで専務に付き合いなさい。帰りはタクシーでお送りして……」
と、これは業務命令だと言わんばかりの口調で言った。
仁科は微かにうなずいた。
「では、専務、これで失礼します」
三谷は最後に一礼だけして、部屋を出ていった。
部屋には二人だけになった。
沈黙が続いた。
残された仁科はどうしていいか分らない様子だった。
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