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桜の季節が巡っても
第3章 恋慕の秋
自分の両手に素早く視線を落とす。
薄桃色に綺麗にネイルが塗られた、指先-。
「あ、これは麻衣が…えっと、いつも一緒いる友達が、この間私の誕生日にプレゼントしてくれて」
そこまで言いかけ、口を噤む。
余計な事、喋り過ぎてる-誕生日だなんて、彼にとってどうでもいいのに。
先生とふたり-こんな偶然、もう二度とないかもしれないのに。
どうして私は気の利いた会話一つ、出来ないのだろう-。
「…あ、ありがとうございました」
-拾ってくれて。
肩から下げたバッグにペットボトルを押し込み、頭(こうべ)を垂れる。
彼が動いた気配がした。
無言で横を通り過ぎてゆく。
-研究室に、戻るんだな。
きつく目を閉じた泉夏の耳に、擦れ違いざま、低音の声が届いた。
薄桃色に綺麗にネイルが塗られた、指先-。
「あ、これは麻衣が…えっと、いつも一緒いる友達が、この間私の誕生日にプレゼントしてくれて」
そこまで言いかけ、口を噤む。
余計な事、喋り過ぎてる-誕生日だなんて、彼にとってどうでもいいのに。
先生とふたり-こんな偶然、もう二度とないかもしれないのに。
どうして私は気の利いた会話一つ、出来ないのだろう-。
「…あ、ありがとうございました」
-拾ってくれて。
肩から下げたバッグにペットボトルを押し込み、頭(こうべ)を垂れる。
彼が動いた気配がした。
無言で横を通り過ぎてゆく。
-研究室に、戻るんだな。
きつく目を閉じた泉夏の耳に、擦れ違いざま、低音の声が届いた。

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