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桜の季節が巡っても
第3章 恋慕の秋
「行こ、伊東君」
今日の講義は難しかったとか。
何を歌おうかとか。
たわいない会話をしながら並んで歩く。
正門までもう少しのところで、泉夏は息を呑んだ。
空席のベンチにいて欲しかったひとが、前方から歩いて来るのが見えた。
今日はもう逢えないと諦めていたのに-途端に胸が甘く疼き出す。
彼を求めて、身体中の細胞がざわめく。
さよならの挨拶を交わして帰れる-たったそれだけの事なのに。
それだけで何故こんなにも、私の身体は悦んでいるのだろう。
自らの手で両肩をぎゅっと抱き寄せ、心をどうにか落ち着かせる。
「流川…?」
大樹が心配そうに、泉夏を覗き込んだ。
「大丈夫?」
-具合、悪い?
なんの断りもなく泉夏の右腕を、大樹はいきなり掴んだ。
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