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桜の季節が巡っても
第16章 永劫の春
秀王は泉夏の右手をそっと、取った。
「…ひとつと言わず、ふたつでもみっつでも。泉夏が望むなら、幾らでも買ってあげたいのに」
緑色の八月の誕生石が埋め込まれた指輪を、親指でなぞる。
残念に思うのも、今日に限った事ではないけれど。
小さな溜め息が漏れそうになるところを、泉夏が遮る。
「ひとつだけだから、意味がある。ひとつだけだから、特別になる。ひとつでいい。ひとつがいい。だからずっと大切にする価値がある」
彼女の心は、ものなんかでは決して手に入らない。
彼女の心は、ものなんかでは絶対満たされない。
彼女の心は、ものなんかでは誤魔化されない。
自分の彼女はそういうひとだ。
もっとなんでも買ってやりたいという気持ちは本当。
もっとなんでも買って欲しいという気持ちが、まるでない彼女で良かったと思うのもまた事実だった。
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