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桜の季節が巡っても
第6章 落涙の夏
本の世界にすっかり入り込んでいた。
ベンチの右隣りに誰かの気配を感じ、我に返る。
いつの間にか、音もなく静かに座っている誰か。
顔を上げれば、穏やかな彼の視線に辿り着く。
おはよう-微かに微笑まれ、鼓動が速まる。
去年一番、彼と多く交わした会話。
会話とも呼べない、ただの挨拶。
でも今日と同じように、毎回、何度だって-どれだけ心躍ったか。
「おはようございます。済みません、私-」
-気付かなくって。
言いながら、利き手に嵌められた彼の腕統計に自然と目がいった。
八時半前-泉夏は首を傾げ、秀王を見上げる。
「車から、ここにいるのが見えたから。待ち合わせには早過ぎたかなって思っていたんだけど…お互い少し早かったみたいだから、ちょうど良かったかな?」
いつでも彼女を誘(いざな)う、その笑顔。
泉夏は急いで本を閉じ、目線を落とす。
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