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桜の季節が巡っても
第6章 落涙の夏
私が本気で恋したひと。
私が本当に愛したひと。
私が生まれて初めて心の底から求めた、ひと。
誰かを好きになる事がどんなに幸せなのかを教えてくれた、私のただひとりの恋愛の先生-。
永遠に私だけを見ていて欲しい-切ない想いとは裏腹に、泉夏は彼から顔を逸らし話を続ける。
「…先生はそのすぐ後に立ち去ってしまったけれども、私その時思ったんです。お互いぶつかりそうなくらいの至近距離で、地面にしゃがみ込んでいて気付かなかったなんて」
「…」
「ああ、そうか。先生ももしかしたら私と同じく、何か探し物をしていたんじゃないかって。そして多分、その探していた物を見付ける事が出来なかったんじゃないかって」
横で小さく、彼が息を呑む音がした。
「どうせ見つかりっこない自分のコンタクトなんてその瞬間、もうどうでも良くなりました。地面に鞄を置き、膝を突き…下着が見えないようにスカートを気にしながら、髪の毛を寄せ。桜の花びらを手でそっと払いながら、その何かを間違って踏んだりしないように、慎重に少しずつ辺りを探し始めました」
あの時の自分の姿を思い浮かべると、今でも滑稽なのだけれども。
でもそんな事どうでもいいくらい、夢中になっていた。
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