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桜の季節が巡っても
第1章 心恋の春
「なあんだ、じゃあ早くかけなさいよ」
ほっとしたように、眼鏡を促す母。
「えっ…」
泉夏はあまりにあっさりした絢子の一言に、困惑の眼差しを向けた。
が、それも一瞬の事。
「ママ、先に行ってて。私、ちょっと探してから行く」
泉夏の決意に絢子は呆れ、深い溜め息を吐いた。
「あなたねぇ、探すってもう式始まるわよ?一年間あんなに頑張ってきたのに、初日から出席しないつもり?そもそも、裸眼が0.1もないくせに、更に片目だけでなんて無理に決まってるでしょ。第一、部屋の中ならともかく、この辺りに落したとしたらまず見付かるわけないし」
絢子の説得は続く。
「ママさっきこの辺歩いたし。あなただって、その高いヒールでとっくに踏んづけちゃてるかもよ。万に一つあったとしてもよ、洗わないで嵌めれないでしょ。トイレどこよ?そんな時間がどこに…」
普段は決して、くどくどと小言を垂れる母ではないのだが、あと数分で式が開始する焦りが彼女をそうさせていた。
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