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桜の季節が巡っても
第8章 忘却の冬
照れを隠すように、泉夏はわざとぶっきらぼうに言い放つ。
「行こ、早く」
泉夏は彼の返事を待たずに、駅の出口の方角へ回れ右をした。
そんな彼女の右手を包む、温かなもの。
緊張は未だにするけれど、秋に初めて繋いだ時のような迷いはもうなかった。
大樹は、左側を歩く泉夏を見つめた。
泉夏も口角だけを上げ、それに応える。
いつもはそのままの繋がれた手が、今日は少し違った。
驚いた泉夏が何をされたか気付いた時には、ふたりの指と指は既に絡み合っていた。
-恋人繋ぎ。
胸の奥底が一瞬でざらついた。
こちらの様子を伺う大樹を横目に、泉夏は僅かに俯く。
肩までの髪の毛が、強張った彼女の表情(かお)を上手く隠した。



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