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桜の季節が巡っても
第8章 忘却の冬
この部屋にはもう随分長い事、足を踏み入れてなかったと思う。
もの凄く久々なのにさして違和感がないのは、十年前と全く同じ配置で同じ物しかないからだろう。
「で?今日は伊東君とデートだったの?」
煙草を揉み消して、龍貴は最も訊きたかった話題に入る。
「…付き合ってないし。食事して、映画観ただけ」
「立派なデートじゃん」
龍貴は、泉夏の意見を一蹴する。
「不幸の欠片もない、楽しい青春の一ページじゃん」
がっかりしながら、自分もそろそろ身体が冷えてきたので、龍貴は窓を閉めた。
寒さからようやく解放され、泉夏は安堵の息を吐く。
「不幸って言うか…ちょっと後悔してしまう事があったって言うか?…でも、実はそんな大した事じゃないのかも。よくよく考えてみると」
あまり追及されたくないので、適当に濁す。
「後悔?」
龍貴は怪訝そうに訊き返す。
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