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桜の季節が巡っても
第9章 邂逅の春
泉夏は恐る恐る彼を見た。
視線の先にいた秀王は目が合うと-微かに口元を緩めた。
「大学の中で初めて出逢い、大学の中で一年を過ごした。それ以外他のどこにも、ただの一度でさえ、ふたりでいた場所はない。…あの夏の二日間を除いては」
「…」
「大学は春休み期間だろうし、辞めた職場へ足を踏み入れるのには正直躊躇もする。…でも、あの場所なら。あの夏の日、再会したあの場所なら。…まあ、格好つけたところで結局、あの場所しか思いつかなかったって言うのが正しい。来るか来ないかも分からない彼女を、それでもあの場所で待つしか俺には方法がなかった」
泉夏はただただ息を潜め、彼の言葉を聞き洩らさぬように耳を研ぎ澄ます。
今度こそ決して、間違わないように。
ちゃんと聞いておかなくちゃ。
あなたが誰の話をしているのか。
あなたがそこまで逢いたいと慕っていたひとは-誰なのか。
でないと私また、聞き違えてしまう。
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