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桜の季節が巡っても
第10章 追憶の春
でも、今日は。
今日はその一線を彼は超えてしまった-そう、思う。
少なくとも自分の中では。
本気じゃなかったとしても、あんな事をされたら意識するなという方が無理だ。
少なくとも自分の中では。
彼はなんとも思っていないのだろうか-逆に、不思議なくらいだ。
盗み見た感じでは、まるでいつも通りの彼となんら変わらない。
正直、神経を疑ってしまう-まあ、普段から滅多な事では動じるタイプではないけれど。
すぐに離してはくれたけど。
改めて-気づかされた。
自分は彼に、力では到底勝てない。
両手の自由は、彼の考え一つでどうにでもなった。
もしあのままだったのなら、自分はどうなってしまっていたのだろう。
もしあのままだったのなら、自分と彼はどうしてしまっていたのだろう。
今までの関係が呆気なく壊れていたのではないか。
怖くて深く、考えられない。
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