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桜の季節が巡っても
第10章 追憶の春
「まさか泣き叫びはしないよね?」
「…」
「階下(した)の人間が血相変えて、怒鳴り込んで来ると思うんだけど?」
「…」
「どう考えても悪いの俺になるじゃん?」
「だからどう考えても、俺が悪いんだってば…!」
もっと怒鳴り散らしてやろうとしたのに、不可能だった。
いつの間にか隣りまで移動していた彼の腕に、再び抱き留められていた。
謝る事しか出来ないけれど-囁いた龍貴の手が、泉夏の頭を優しく撫でる。
「もう一度、ごめん」
その声にすぐには反応出来ないでいると、自嘲気味の吐息が漏れた。
「やっぱり…許せないみたいだな」
龍貴のそれを受けて、泉夏は首を振る。
「…許してる。嫌いにもなってない。それは本当。…ただ、まだ動転してるって言うか」
そんな中でこんな風に抱き締められたら-平静でなんかいられない。
でも、自分を慰めようとしてくれている好意を無下にも出来ず-とりあえず、大人しくされるがままになっておく。
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