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桜の季節が巡っても
第10章 追憶の春
「いいの。そのうちきっと、時間が解決してくれるから-」
夕飯の支度が大分進んだ頃ではと部屋のドアまで歩み寄り、取っ手に手を伸ばした時。
「今度こそ本当に、忘れさせてあげようか?」
自らの手に、龍貴の左手が重なった。
重なったまま捕らえられ、泉夏は背後を振り返る。
「伊東君のなんて、てっきり頬に掠めるようなやつだと思ってた。だから同じくしたんだけど。でも違ったのなら、今度こそ伊東君と同じようにして、忘れさせてやろうか?」
誘い込むような悪い、微笑。
龍貴の申し出に、泉夏は丁寧に断りを入れる。
「…もう、一回で十分です」
二回も三回も、出来るはずがない。
そもそもさっきだって、どうするかの返事を待たずにされた。
またとんでもない事になりそうなので、素早く答える。
「残念。忘れさせてやれたのに」
泉夏の手を離した彼の口元が微かに上がった。
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