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桜の季節が巡っても
第10章 追憶の春
吃驚し身体を後ろに引いたが、背中はすぐにドアに行きついてしまった。
冷たい汗が背を伝う。
恐々と、彼に目をやった。
いつもとなんら変わらない余裕の笑みで、龍貴は泉夏を見返す。
いけない-思うより先に。
彼のその瞳に理性も、自制も、全て絡み取られてしまう。
更に近くなる、距離。
「有栖川先生は難しいけど、伊東君ならあっと言う間だけど?」
囁かれ。
その温かな息遣いに、身体を瞬時に縛られる。
全く押さえつけられてなんかいないから、逃れる気があるなら逃れられるのに。
彼が好んでつける香水の匂いに正常な思考は奪われ、自分はどうすればいいのか分からなくなってくる。
様々な感覚が麻痺し、遂に泉夏は頷いた。
僅かな-でも明確な、彼を受け入れる意思。
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