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桜の季節が巡っても
第11章 逡巡の春
「そうやってお前が困るのが分かってたから、黙ってた」
携帯用の灰皿で煙草の火を消しながら、龍貴は呟いた。
「言う必要もないかなと思ってた。でもなんか放置してるとか、はっきりしろとか散々怒鳴られたから、一応伝えるだけは伝えた方がいいのかなって思っただけ」
「え?」
「お前がずっと有栖川先生の事好きなのは、よく知っているし。いなくなってからも口では忘れるだの忘れただの言ってても、想い続けていたのも知ってる。大学の先生なんかを好きになって、毎日些細な事で一喜一憂して。その辺の適当な同級生でも好きになってれば、必要以上に泣く事も苦しむ事もなかったのに。さり気なく忠告しても、やっぱり先生が大好きで。三年も一途にひとりの男を想い続けるなんて。逢う事さえも叶わない男を想い続けていられるなんて。俺からしたら尊敬に値する。どれだけいい男なんだって嫉妬しそうになる。昔から可愛がってきた幼馴染みの大事な妹が、それ程までに好きなら応援してあげたいって素直に思った。自分に出来る事があるのなら、協力してあげたいって本気で思った。…だから俺の気持ちを伝えて、わざわざ悩ませる意味なんてないと思ってただけ」
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