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桜の季節が巡っても
第12章 希求の春
自分の左側に、誰かが腰を下ろす気配。
最初は何も気にしていなかった。
けれど数分経ち、本を開く様子も、ましてや動く気配もなく。
机に置いた鞄にただ両手を乗せているだけの人物に、流石にちょっとおかしいなと感じ始める。
何気なさを装い、視線を左に流した。
まさか顔をいきなり覗くわけにもいかず-そのひとの、手を。
数年前から幾度となく見続けてきた、見覚えのあるその指。
ずっとずっと変わらない、その色。
次の瞬間。
彼は思わず、迷いなく、彼女を見た。
深く俯いたまま動かない横顔。
声をかけたくとも、私語は禁止されている。
散々逡巡した後(のち)、彼は自らの手を伸ばした。





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