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桜の季節が巡っても
第12章 希求の春
自らの両手を包む温かなものに泉夏はびっくりし、反射的に面を上げた。
鞄に乗せたままの自分の手の上に、講義後の質問の度に幾度も目にした、見覚えのある時計を嵌めた手。
泉夏は瞬時に彼を見た。
怒ってなんか。
哀しんでなんか。
軽蔑してなんか。
そのどれでもない、優しい顔があった。
泉夏の手に乗せた左手を一瞬の迷いの後(のち)避(よ)け、秀王は目を細めた。
「…行けないって、言った」
申し訳なさから再び視線を落とした泉夏に彼は薄く笑い、無言で頷いた。
「来たって、いないのに。なのに…どうして」
いないのを知ってて、何故。
どうしてわざわざ、沢山の時間とお金をかけてまで。
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