この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
桜の季節が巡っても
第12章 希求の春
自らの両手を包む温かなものに泉夏はびっくりし、反射的に面を上げた。
鞄に乗せたままの自分の手の上に、講義後の質問の度に幾度も目にした、見覚えのある時計を嵌めた手。
泉夏は瞬時に彼を見た。
怒ってなんか。
哀しんでなんか。
軽蔑してなんか。
そのどれでもない、優しい顔があった。
泉夏の手に乗せた左手を一瞬の迷いの後(のち)避(よ)け、秀王は目を細めた。
「…行けないって、言った」
申し訳なさから再び視線を落とした泉夏に彼は薄く笑い、無言で頷いた。
「来たって、いないのに。なのに…どうして」
いないのを知ってて、何故。
どうしてわざわざ、沢山の時間とお金をかけてまで。
鞄に乗せたままの自分の手の上に、講義後の質問の度に幾度も目にした、見覚えのある時計を嵌めた手。
泉夏は瞬時に彼を見た。
怒ってなんか。
哀しんでなんか。
軽蔑してなんか。
そのどれでもない、優しい顔があった。
泉夏の手に乗せた左手を一瞬の迷いの後(のち)避(よ)け、秀王は目を細めた。
「…行けないって、言った」
申し訳なさから再び視線を落とした泉夏に彼は薄く笑い、無言で頷いた。
「来たって、いないのに。なのに…どうして」
いないのを知ってて、何故。
どうしてわざわざ、沢山の時間とお金をかけてまで。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


