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桜の季節が巡っても
第12章 希求の春
なだらかな曲線を描くふたつの膨らみは、これ以上はないくらい自らに密着し。
艶やかに塗られた薄い桃色の唇は、ほんの僅か開いている。
自分を蠱惑するにはもう十分過ぎる程の、艶めかしさ。
それが愛する彼女であれば、最早どうやって我慢すればいいのか分からない。
離したくない理由にはなるが、手放さなければならない事由には全くならない。
ただただ溜め息を吐くしかない-その愛しさ。
何故自分はずっと、本気で手に入れたいと思わなかったのか。
何故自分はずっと、本気で欲しがらなかったのか。
泣けてくる程に、こんなにも好きなのに。
泣く程好き-こんな想いが、自分の心の中に存在するなんて。
「泉夏」
彼女を呼ぶ。
三年分の想いを込めて、彼女の名を呼ぶ。
泉夏は静かに顔を上げた。
自分を微かに見上げる濡れて光る黒い瞳に、またも一瞬で心奪われる。
何をされても今の自分はきっと、彼女に誘惑され続けるだけだった。
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