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桜の季節が巡っても
第13章 相愛の春
扉の閉ざされたホテルの室内にふたりだけとなった途端、一気に静寂が訪れる。
涙で潤んだ瞳で佇む彼女が本格的に泣く前に、なんとか宥めようと考えていたのだが-何度遭遇しても非常に苦手な場面に変わりはなく、躊躇してしまっていた。
けれど、やっぱりすぐになんとかしないといけない-思い直した時。
意外にもまだ涙は頬を伝わっておらず-寧ろ、彼女の泣く気配が薄れているのに気付く。
心底安堵はしたものの、でも何故だろう-秀王は逆に気になり始める。
さっきまでは絶対、号泣するように見えたのだが-。
名前を呼ぼうとした矢先、泉夏が開口した。
「…私、泣かないから」
彼女は宣言した。
「龍の事、かわいそうだとか申し訳ないだなんて全然思ってない。泣いたら龍の事、そう思ってるって肯定する事になる」
-だから、絶対泣いたりなんかしない。
泉夏はきっぱりと言い切った。
そんな風に同情をかけるのは、彼が一番嫌う事だ。
自信家で、いつでも人の上にいないと気が済まない彼にとって、それはきっと屈辱だ。
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