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桜の季節が巡っても
第14章 朧夜の春
「…うん。聞こえてる」
どうかしそうな自身を抑え、秀王は呟いた。
泉夏は彼の胸から顔を上げた。
視線が繋がれば-彼は笑っていた。
その微笑みの意味が、泉夏には分からない。
既に大きく波打っている胸をもっとどきどきさせながら、泉夏は秀王を食い入るように見る。
自分を真剣な瞳で見つめるその姿が堪らなく可愛くて-そして、申し訳なく思う。
謝罪がすぐに口をついて出た。
「ごめん」
「えっ?」
「そんなに本気にするとは思わなかった。聞こえてないよ」
からかわれてた-泉夏は頬を染め、秀王を軽く詰る。
「ひどい、先生。一瞬、ほんとに聞こえてしまってたかと思ったじゃない」
本人は至極真面目に訴えてきているのだろうけど。
そのちょっとだけ拗ねた口調も。
その少しだけ怒ったかのような眼差しも。
ただ可愛いだけだった。
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