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第14章 朧夜の春

彼女の心臓はどれだけ速く動いているのだろう。
自分だけじゃなかった事が、酷く嬉しい。
だけど。
これだけは断言出来る。
これだけは譲れない。
自分ほどじゃない。
彼女に惑わされ続け我慢の限界がきている、自分の心臓ほどじゃない－。
そんな考え事をしている間に、彼女が身体を離そうとした。
会話の途中だったのに、返事を返していなかったかもしれないと気付く。
怒ってしまった？－宥めるように抱き寄せれば、何か不満げなそれを漏らされた。
でも勿論、離す気なんてこれっぽっちもなかったけれど。
「泉夏…聞こえる？」
問いかければ、腕の中で彼女は戸惑ったようだった。
答えようにも『何が』か分からなかったから、当然だった。