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桜の季節が巡っても
第3章 恋慕の秋
恋の矢に胸を射抜かれる。
逢えない日々には深々と突き刺さり、容赦なく抉られる。
なのに。
逢えたら逢えたで、今度は甘い媚薬を仕込んだものへと変わり、全身に甘美な毒を巡らせてゆく。
切なさに顔を顰(ひそ)めた泉夏の瞳と、彼の瞳が繋がった。
気配を感じたのか、いつの間にか面を上げていた彼が、双眸を一瞬細めた。
誰なのかを認識し、栞を挟む事もなく本を閉じて腰を上げた。
泉夏は溜め息を漏らす。
あなたを独り占めしていられた時間は余りにも短い-。
近付く事も遠ざかる事も出来ず立ち尽くす彼女に、彼は開口した。
「随分早いんだな」
久し振りに聞く、低く、穏やかな声。
身体中の血液が沸騰する。
差し障りのないたったの一言でさえ、こんなにも興奮し、昂っている-なんて正直な身体だろう。
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