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優しい愛には棘がある
第1章 ご注文はイケナイ遊戯
* * * * * * *
月曜日、心咲は白々しいほど日常的なひとこまにいた。
午前中は発注や補充に専念していた。土日と同様、コンビニエンスストアにいる間に限っては、晴れない心に構っていられる余裕もなくせた。
それでも、休憩時間や客足が途絶えたようなふとした時、週末の夜が脳裏を掠める。
「──……」
心咲は制服のポケットに片手を差し込む。
捨てられないでいた空き瓶が、指に触れた。あの朝、自宅に送り届けてくれた皐月が去り際、早番を控えていた心咲を思い遣って握らせてくれた眠気覚ましのサプリメントだ。
「おい」
ドスの効いたアルトの声が、心咲を束の間の回想から引き戻した。
「あっ、いらっしゃいませ。有り難うございます」
心咲は慌てて背筋を伸ばす。
レジ台の向こうにいる客の顔を確かめた瞬間、心臓が大音量を立てた。
「さ……つき……さん……?」
「お前は客が来ても気付かねぇのか。ったく、しかもツインテールかよ」
皐月の手先が、心咲の耳の近くで結ってあった毛束の片方を掬った。
はらはらと、心咲の木苺の色をした髪が、制服の肩を流れてゆく。
「…………」
「皐月さん。お品物は……、あ、何かお支払いですか?」
心咲は気を引き締めて、皐月を見上げる。
この目にあられもない姿を映されたのだ。この鼻に女の匂いを嗅がれて、唇に、触れて触れられて、淫らな吐息や言葉を交わした。
皐月の手は魔法だ。見ているだけでじんとする。そしてその姿は、今も、こうして眺めているだけで、胸が逸る。
「お前、ざけてんの?」
「え……」
「ご注文は、店員さんとまで言ってやんねぇと分かんねぇ?自宅にエロネコって貼り紙貼られたくなかったら、ツラを貸せ」
「──……」