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優しい愛には棘がある
第2章 Moon crater affection
* * * * * * *
いづるが月子と関わるようになって、半月と少しが過ぎた。
月子は、凝りもしないで例の上級生と交際を続けていた。
いづるは月子が徹底して肌を見せたがらない理由を知った。
月子の、彼女が常々好んで身につけているこまやかなディテールの効いた洋服の下は、痣や傷だらけだという。
原因は、月子の最愛の人の暴力だ。いつも突然起きる。月子は努めてそれを隠して、明るく振る舞いたがっている風だが、その姿は却って痛々しい。
あの少年から、いづるは身近にいるある人物を思い出す。
彼女は周りも呆れるほどパートナー思いで誠実で、家での振る舞いは、いっそ王女に屈する臣下を聯想するものだ。
ただ、彼女はサディスティックな性癖を備えていた。彼女曰く、美しいものは冒涜してこそ価値も際立つのだという。
いづるはその人物に育てられた。
彼女、橋村佐和と、そのパートナーの紫倉由多香こそ、事実上の両親だ。
戸籍上、由多香はいづるの叔母に当たる。しかしながらいづるは実の母親とは、おりふし親族らの集う場所で顔を合わせるだけの関係だ。
いづるは物心ついた頃より、由多香と佐和を「お姉様」と呼んで慕っていた。
自分が二人の実子ではなく、しかも大多数の両親というものが、母と父という二種類の人間を指して定義づけられているのだと知ったのは、それから随分経ってからだ。
それくらい、由多香と佐和は、いづるを実の娘同然に慈しんでくれていた。