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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
「ごめんなさいまし……また、こんな適当な恰好で」
「本当ね。美しいから見ていられるようなものだけれど、貴女じゃなくちゃ許せなかったわ」
「なしろ様……っ」
「やめて頂戴、繪野咲優(えのさゆう)さん。あたし、一回りも年上の女性に、様呼ばわりされる趣味はないの」
ひとたび主人に懐いたペットは、たとえぞんざいにあしらわれても、無邪気にすり寄るという。
それと同様、咲優もなしろの寝床へ進んだ。
「また……今朝、良人に手を握られました」
所帯染みた小柄な女が、上体を起こしたなしろの足許に跪く。
「子供の数は……二人が良いねと、言われました」
咲優の顔は、ともすれば世界の終焉にでもまみえたごとくの蒼白だ。
酸いも甘いも噛み分けた、大人の女の双眸は、それでいて雨に打たれた仔ウサギの赤い瞳に似通う。
なしろは、咲優を見下ろしていた。
「結婚してから男嫌いを自覚した、咲優の愚痴は聞き飽きたわ。貴女が間抜けだったんじゃないの?」
「お見合いで……あの人と、その時はお話ししただけでしたので……。その、手を握った感じなどより、お話が楽しかった方が印象的でしたので」
「お話が楽しかったから、結婚したの?」
なしろが問うと、咲優が神妙に頷いた。