この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
* * * * * * *
早辺真宵(はやべまよい)は、黄昏時の植物園を散歩していた。
このところ、大学の講義を終えるとほぼ毎日、こうして自然に親しめる施設を訪う。
両親と顔を合わせる時間をなるべく減らしたいからかも知れない。
ともすれば道徳を差し置いてまで世間体を重んじる母と、生きた化石のごとく厳格な父──…彼らは自営で生計を立てている。
馴染めない。
馴染めない彼らと真宵は家にいればのべつ顔を合わせ、窮屈な心地に息を詰まらせねばならなかった。
ベビードール風のワンピースの裾が、風を受けて軽らかにたゆたう。
その度に、ピンクからサックスのグラデーションの羽根を広げた蝶が舞う、珍しい花形のジェリービーンズがスワロフスキーの鎖に編み込まれたプリントが、淡いピンク色のシフォンの中で揺れる。
真宵は黒いパラソルの柄をもてあそびながら、中央広場の歩道を外れて小道に曲がった。
木々を彩る新緑が、透かし編みの天幕を張ったように、頭上の空を覆っていた。
舗装された歩道を奥へ、奥へと進んでいく。
やがて人の姿を見かけなくなった。
聞こえるのは虫や鳥の鳴き声だけだ。草木の葉のすれる音、風の淡い音色が時折とけ込む。
途中、セメントの道が砂利道に替わった。
しとしと、さくさく、歩いていく。
足許が、更に変わった。
乾いた土や、腐って変質した植物が、でこぼこの獣道を形成していた。