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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
真宵の前方に、植え込みの壁が現れた。
密生した木々が壁と真宵をとり囲み、いかにして考えてもここで行き止まりのようである。
だが、真宵は何かの引力に絡め捕られるようにして、壁に進む。
一ヶ所だけ、野良猫の通れるほどの隙間があった。
真宵はパラソルを閉じた。
パニエで膨らんだワンピースの裾を抑えて、しゃがみ込む。
葉と葉をかき分け、野良猫の隙間に頭を突っ込む。
押し殺したような、泣き叫ぶようでもある女の声が、真宵に降りかかってきた。
「…──!!」
顔を上げた真宵の目先に、この世のものならざる光景が広がっていた。
女が石膏の台の側に佇んでいた。
甘く淡い色をしたワンピースに、腰まで伸びた栗色の巻き毛──…妖精だ。
直感が真宵にささめいた。
女の垂れ目がちな目許はとろけるような甘さを含み、それでいて淋しげな影がある。きめ細やかな白い素肌は太陽は疎か、排気ガスや二酸化炭素に汚れた地球上で本当に今まで生きてきたのかと疑いたくなるほど悪目がない。
真宵から見て、女を形成しているあまねく要素が人間らしさに欠けていた。
妖精の瞳の捉えるものを、目で追いかける。
一人の女の形をした人間が、一糸まとわぬ姿になって、白詰草の白い台に跪いていた。今しがたの声の主だ。