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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
* * * * * * *
咲優を始め、ここに至った迷い子達がなしろに跪きたがると同様、なしろも言い知れぬ引力の支配下にいた。
この場所だ。
しがない市営植物園の一角、なしろが日中の大半を過ごす場所が訪う人間を限ってきたのは、ただ人の手の管理が行き届いていない所以だと言いきるには腑に落ちなかった。
なしろは引力の正体を知った。
早辺真宵と名乗る少女は、ちょうど彼女らと同世代の娘達とは違っていた。
黒い髪にとりたてて癖のない容姿、おまけに捻りのない甘ロリィタ服の着こなしは、同じような少女らの群れの中にいれば、真宵はいっそうずもれてしまおう程度だ。
真宵がなしろに与えた心象は、姿かたち如何より、人間になり損ねた不安定な存在感の方が強かった。なしろを不可視の合わせ鏡にとりこめる。
なしろは、真宵に秘密の広場の話を聞かせた。
ここは本来、見付けられるはずのない場所だということ。
人間界にはおりふし妖精界の出入り口となる異次元が生じて、それらの多くは、人の手の加わらない大自然のいずこかで起きるということ。しかし、どういうわけか、人工のここがそれになっていたということ。…………
「妖精は、人間界では暮らせない。空気や自然が汚染されて、精神界も、色んな歪みをきたしているから」
「では、私は何故……」
「人間界にも、稀に敏感な人間がいるの。そういった体質の人間は、外の世界では息苦しいところがあるの。肉体と精神の違和感。周囲との距離。少なくともここにいる彼女達は、自分を馴染ませようと強制する家族や他人に参っているみたい」
「──……」
真宵のアーモンド型の双眸が、なしろから逸れて僅かに顫えた。