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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
植え込みの葉と葉がこすれ合う音がしたのは、にわかのことだ。
あと少しで触れていたろう二人の唇が、条件反射的に離れた。
「……お前か」
ここにまみえられようはずのない、男の形をした人間が立っていた。
真宵が音もなく腰を上げた。
なしろは真宵に庇われるような位置から、見知らぬ男を凝視する。
「妻を……咲優をたぶらかしたのは、お前か……穂垣」
「…──!!」
そこではたと気が付いた。
男の手に、見覚えのある、咲優の青い手帳があった。
手帳と一緒に握られてある、銀の光がなしろに舌舐めずりする。
なしろは、光が狂気なしでは握れなかろう凶器のそれと認めるや、真宵を押しのけていた。
「なしろ様!!」
悋気に狂った人間の目は醜い。
避けなかったのは、鞘をなくしたシースナイフが、真宵をおびやかしてはいけないからだ。
なしろが脇腹に非現実的な痛みを覚えた瞬間、男の目に、初めて恐怖の色が宿った。
「っ……」
「俺は……俺はやってない……」
「なしろ様っ!!」
恐怖で意識が遠のいていく。
自分を呼んでくれる少女の声が、愛おしい。
…──やはり逃げるべきだった。
体内を機能させていたものが、流れてゆく。後悔しても遅かった。