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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
* * * * * * *
妖精界に焦がれていた。
純粋で、譎詐と吝嗇にまみれた現世とは違う──…無垢な世界に憧れていた。
長い歴史を重ねる内に、社会は歪んだ。
神や自然の干渉出来る隙さえ閉じた。人間達は互いを桎梏し合っていることにも気付かないで、彼らの属する巨大な組織を必要以上に矯正し、今も尚、不可視の汚染を続けている。
息苦しかった。
だから、せめて小さな場所で良い。
なしろは何色にも染まりたがらない眷属達の楽園を、望むようになっていた。
「咲優があたしを見付けてくれたのは、桜(はな)の咲く季節だったわ。あの人は……この白詰草の寝台で、昼寝していただけのあたしを……妖精だと見まがった」
なしろは真宵と肩を並べて、蜜色に染まった空を眺めていた。
「逃げたかったの……くだらない世界の見えない場所へ。歩いて、歩いて、緑の匂いに導かれるようにして辿り着いたのが、ここだった。あたし、……格好悪いこと白状しちゃうと、家賃、滞納している」
腹が、酷く脈打っていた。
あのいじらしい、純粋なだけが取り柄の女性の配偶者に刺された肉叢を覆った白いブラウスが、真っ赤に変わり果てていた。