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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
「就職して七年。色んなもの抱えて、溜まって、会社に……行くの疲れちゃった。人間嫌いに拍車がかかった。学生やめても、学力や素行で優劣や価値が決められる、あの頃と、変わらなくて。もっとどろどろしていた。そんなつもり全然なくても、実益主義の社会に汚されていく。何かするために生きてるんじゃない、皆、生きるために何かしている」
…──あたしにはそういう風に見えていた。
「少しでも他人の上に立とうって、得しようって、追い立てられて、そういうこと考えなくちゃ生きてけないって……分かってても……だから、同じ振りをして、逆に彼らを欺こうとしてみたりもしていた。けど、拒絶反応は無視出来ない。……馬鹿馬鹿しいもの演じてた、あたし自身に、うんざりしたの」
耐えかねて、半年前、仕事を辞めた。
そして家賃を滞納させる羽目になったのだ。
なしろがここで昼寝をしていたのは、屋根を失っても眠れるよう、練習を兼ねていたのかも知れない。
「ごめん……真宵。あたしは貴女の……貴女達の理想郷を、あるものと見せかけていただけ。ここは妖精界の出入り口じゃない。ただの……人間界よ。貴女がさっき見たように、ここには人間も来られるの」
「いいえ……いいえ、なしろ様……」
「幻に縋っていたわ。真宵や咲優、かおりを……無垢なもので守りたかった。けど、あたしがこんなにちっぽけで……救われない、人間なんだから……妖精じゃ、ないんだから……」
「──……」
「後悔、していないわ。出来ない……何も」
「なしろ様……」
「あたしには他の生き方なんて無理。それが出来るなら、妖精界を信じたりしなかったもの」